音楽の贈り物(Musikalisches Geschenk)

   音楽の贈り物は、今まで私の気に入った曲をCDに編集して、数人の音楽好きの友人たちに配布したものです。

 

1 SARAH BRIGHTMAN and Bali's Sound

 

 ここにすばらしい音楽の数々をお贈りします。サラ・ブライトマンを中心に構成してみました。サラの豊かな声量は、西洋音階の延長上にあります。一方で最後にお贈りするバリの音楽はアジアの音階です。FM、SP、CD、INT等様々な音源を素材にPCソフトで製作調整しましたが、生の曲を壊さないためにも若干の音量の違いが残ってしまいました。それぞれ聞かれる方の好みの音量でお聞きください。

1.涙の流れるままに(Lascia Ch’io Pianga)
ヘンデルの歌劇「リナルド」から、娘が父親に騎士リナルドヘの愛を打ち明ける場面です。Time to say goodbye と同様にサラを一躍有名にした曲の一つです。


2.バロックアンサンブル
ブロックフレーテなど軽快なバロックサウンドです。


3.戦争は終わった(The War is over)
アメリカのイラク攻撃を批判したサラの反戦歌。途中でアラブの人気歌手ガディム・シャヒールが全人類に平和をと叫びます。


4.ハープと管弦楽のための協奏曲
アメリカの作曲家Alan Hovhaness(1911~2000)の神秘的なハープの音色をヨランダ・コンドナシス(Yolanda Kondonassis)が演奏しています。現在人気絶頂の彼女もアメリカで生まれています


5.Chi Mi Na Morbheanna
スコットランドの高地族ゲール人の民謡を美しい女性ボーカルの二人がアレンジして歌っています。


6.Foggy Tam Set
全曲と同じ二人の合奏曲です。シラ・カメン(Shira Kammen)のほうがバイオリンです。彼女もアメリカで活躍する歌手、作曲家、バイオリニストです。


7.Begin agein
INTのMagnature Classicalからダウンロードした曲です。ゆったりしたボーカルの伸びと、ひなびた笛の音が印象的です。


8.La Tormenta
曲名はスペイン語で嵐、激情、逆境を意味します。その名の通りを表現するかのような見事な演奏です。フラメンコギターはスペイン人Miguel Espinoza、インドのタブラはTy Burhoe。二人ともそれぞれの楽器を代表する最高のプロフェッショナルです。


9.La Califfa
エンリオ・モリコーネが音楽を担当した同名の映画があるようです。英語ではLady Caliph(女性のイスラム修道僧?)と訳されています。20年前でしょうかNHK「ルーブル美術館」でも使われた美しい曲です。


10.Dune Solo
フランク・ハーバードのSF大作「砂の惑星」を映画化した作品に出てくる曲。人気ロックバンドToTo が作曲しています。


11. カントリーガール
女性のフォーク歌手やシンガーソングライターがかって多く輩出した頃の谷山浩子の代表作。


12. Bach Invention
バッハが息子の教材として作曲した2声と3声のためのインベンション(創造的発想)15曲のうち、第2曲。グールドが唸るように、しかし淡々と、そして繊細に弾いています。心の奥底にしみいる演奏です。


13. 涙の乗車券(Ticket to ride)
カーペンターズがビートルズのヒットナンバーを歌っています。この曲でデビューをはかろうとした彼等の野心作ですが当時は売れなかったようです。今聞くと明らかに彼等の傑作の一曲ですが。


14. The Secret Wedding
映画「ブレイブハート」のサウンドトラックから。 曲名を連想させるような印象深い曲です。

 

15. Sarahbande
原曲はヘンデルのサラバンド。以前の「ニュース ステーション」のイントロテーマとしてサラの声量が有名になった曲。


16. Ya Ti Postilam
ブルガリアの民謡をもとにした歌。ブルガリア国立民族合唱団の女性コーラス。見事な低音の斉唱は西洋音階からはみ出るような半音階へと流れ出ていきます。


17. Bali Sound
突然打楽器の音で始まります。バリ島ヌガラ産の大竹で作ったジェゴグという打楽器の音です。最初はGopala(羊飼いの少年)という曲。次にシンカパドウ村のバロン劇から優美なレゴンダンス。そして再びジェゴグでTabuhBelanda(オランダへの戦い)。最後はバロン劇にもどって魔女ランダとクリス(短剣)を持った戦士との戦いの場面。戦士たちはランダの呪術によって自分達の胸にクリスを突き刺します。しかし勝負は善(バロン)、悪(魔女ランダ)のどちらが勝つか決着がつかず、僧侶が戦士たちに聖水をふりかけて太鼓の3連打で劇は終了します。
(このCDジャケットに描かれた白黒の格子模様の布はバリヒンズー教徒の腰巻きに用いられ、善と悪の混交、共存を意味します。)

 私がバリを訪れて聞いたジェゴグは、ヌガラではなく、ウブドの若者たちで構成するヨワナ・スワラ・ウブドというグループでした。夜、幻想的なダラムウブド寺院で開かれた演奏会では、このCDにある「羊飼いの少年」も演奏されましたが、本場スアールアグンの演奏と遜色のないものでした。途中、クライマックスに向かって、それいくぞとにこやかに顔を見合わせる若者たちのすがすがしい表情が忘れられません。これは今の日本や西洋の若者にはない笑顔かもしれないなと思いました。バリの若者とて厳しい練習を積み、自己を研鑽し、演奏で有名になり、それなりの地位を築きたいという気持ちは変わらないでしょう。しかし彼等には我々以上に、そこにかけがえのない周囲の人々が存在します。善人であれ、悪人であれ、強者であれ、弱者であれ、いわば多種多様な人格や精霊に取り囲まれて、それらと共存しない限り、個人も自由もそして創造的な発想もあり得ないと彼等は考えているかのようです。
 
 一方、バッハのインベンション(創造的発想)は一人個室でクラヴィコードに向かうバッハの息子を連想させます。神なのか、恋人なのか、一人の人格に思いを込めて、あこがれ、悩み、そして創造していきます。最後のバリの音楽から、もう一度サラの「涙の流れるままに」を聞いてみてください。ああ、この音階こそ私たちの音楽であり、あこがれ、悲しみ、そして喜びを表現するロマンチズムの極致だと実感します。そしてあの「ニュースステーション」の導入の音楽だった、サラ・ブライトマンの絶唱は企画、作曲、音響効果、オーケストレーションが一体となって成功したコマーシャリズムの成果であることは確かです。音楽はすばらしい。ただ、「ニュースステーション」そのものには、90%以上が中流階級意識を持つ日本社会の虚しさが漂っているように思えます。ニュースに「一般的・道徳的な」解説を加えるということ、一方でちょっぴり反体制的な批判をブレンドして中流階級の知的満足に答えること、何かがおかしいなという気が残ります。
 ともあれ、ここにお贈りした音楽は、どれも甲乙つけがたいものです。ただ一つの図式としてはロマンチズム豊かな西洋音階が主流であり、その周辺でアラブやスコットランドやブルガリアの民族音楽が西洋音階風に変容を見せています。一方アジア的な音階は日本民謡などと同様に西洋音階とは異なった独自性を維持しています。本当はブルガリアの女性たちの合唱の後に、日本の木遣り歌にも似たバリ音楽、ケチャの見事な男声合唱をお贈りしたかったのですが。また次の機会があればお届けすることにします。
                                                  

(2004/09/26)

 

 

 

 

 

2 ZUR HOFFNUNG MIT LIEBE

 音楽の贈り物の第二弾です。今回は「愛と希望に満ちた」音楽がテーマです。数年前なくなった指揮者のチェリビダッケが語っています。すごい失恋をしてどうしようもなくなったとき、そんな時例えばゆったりと風呂につかっていると、どこかからモーツアルトが聞こえてくる。そして悲しみに浸りながらもこの調べを聴きながら生きる希望を味わうことができる。これこそ音楽だ、と。音楽の浄化作用です。そんな、伸びやかな空間的広がりのある曲を集めてみました。第一弾と同様にFM、SP、CD、INT等様々な音源を素材にPCソフトで製作調整しました。ではどうぞ。


1.ヘンデル合奏協奏曲作品6(第12番アリア)
今回もヘンデルから始まります。トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサートがオリジナル楽器で単純な曲想を淡々と演奏します。しかし落ち着いた中にも伸びやかな希望(Hoffnung)に満ちた演奏です。


2.スカボロー・フェア
サイモン&ガーファンクルのヒット曲をサラ・ブライトマンが歌います。スカボローの市場に行くならそこに住むあの人によろしく、昔私が心から愛した人なの、と。


3.アンダンテ・カンタービレ(スカルラッティ)
サキソフォーンのカルテット「ルアプレヴィ(予期せぬ出来事)」の演奏。伸びやかにサックスが絡み合います。


4.When I fall in love
恋に落ちるならずっと落ちていたい。ナット・キング・コールの語り口はやはり時代の郷愁を感じます。


5.My foolish heart(愚かな私の恋心)
ステフォン・ハリスという26歳のヴァイブラホン奏者の演奏です。ピアノとの軽快な掛合いです。


6.子守歌
黒人のソプラノ歌手、ジェシー・ノーマンがリヒャルト・シュトラウスの子守歌を声量豊かにうたいあげます。夢を見なさい、私の可愛い命・・・。花をもたらす天国の夢を!空間のおおらかな広がりをイメージできます。


7.伝統的な教会音楽(メーゲンの修道女たちの合唱)
特別に教会で録音できた、実際の修道女たちの合唱です。教会内の残響が澄み切った崇高さをかもし出します。


8.Goin’Home(家路)
ドボルザークの「家路」をアイク・ケベックのテナーでボサノヴァ風にジャズっています。ケニー・バレルのギターとの絶妙のコンビ。この吹き込みの2ヵ月後アイクは肺がんで死去。44歳の若さでした。


9.ふたりの誓い
カーペンターズのヒットソング。これから生涯をともにしていくふたり。語り合うことはたくさんあるし、一日、一日とあなたを身近に感じていく。流れるような一品です。


10.アリア
ヴィラ・ロボス作曲、ブラジル風のバッハより。夕暮れ、美しく夢見る空間に透き通ったばら色の雲がゆったりと動く。クリストファー・パークニングのギターをバックにキャスリーン・バトルが歌います。


11. Forever
第一弾と同様DUNEから。永遠に、永遠に。ジャズバラード風にピアノの残響が広がります。


12. 一恵
一期一会、いくつかの出逢いの中で、それぞれに心を知りました。作詞、曲想とも彼女の代表作といえます。


13.古代ローマ残照
NHKの「ルーブル美術館」でエンニオ・モリコーネが 作曲した曲。古代ローマの繁栄から没落へと、暴君カリグラの胸像が映し出され、なんともいえない哀愁が漂います。


14. Domine Deus (神なる主)
モーツアルトの大ミサ曲、グローリアの中の一曲。バーンスタイン指揮、バイエルン放送合唱団と交響楽団。アーリン・オジェーとフレデリカ・フォン・シュターデのソプラノ二重唱のなんと伸びやかなことか。


15. Flute Sonata Cmajor
バッハのフルートソナタから。

 

16. Love letters
浪花のジャズボーカリスト綾戸智絵の弾き語りです。楽器と違ってジャズボーカルというスタイルが日本人には本当に難しいのですが、彼女は自分のスタイルを持っています。大阪の文化も寄与しているようです。


17.Standchen(セレナーデ)
シューベルトの遺作をあつめた歌曲集「白鳥の歌」に収められたおなじみの曲。あなたの心をもっと開いてほしい。愛する人よ、僕に耳を傾けて!身のふるえる思いで待っているのだから!クリスティアン・ゲルハーエル(バリトン)とゲロルト・フーバー(ピアノ)の息の合った演奏。


18. I am a fool to want you
あなたをほしがる私はどうしようもないアホンダら。何度もあなたのもとを去った。でもそのあとであなたが必要だと思い知るの。あのビリー・ホリデイの独特の歌いっぷりに聞き惚れてしまいます。


19.古戦場
アイルランドの現代作曲家、ジェラルド ・ファーイの作品。イングランドとの戦いの荒涼とした古戦場・・・しかしなんと広がりのある希望に満ちた曲でしょう。若きキース・ロックハート指揮ボストンポップスオーケストラが民族楽器ローホイッスルのすばらしい笛の音と絡み合って伸びやかに演奏します。

 

 

 

「苦悩は理性を磨き、心を強くする。それに対し、喜びは理性を無視しやすく、心を甘やかすか軽薄にする。自分のやっていることが最善で、それ以外のすべては無だということを、惨めな思いをしているたくさんの人たちに思い込ませようとする偏狭さを僕は心のそこから憎む。」「誰もが信念を持ってこの世に対する。それは理性や知識にはるかに優る。というのも、何事かを理解するにはまず信じなければならないからだ。」
 これらはシューベルトの言葉です。梅毒に冒されながら31歳の若さでなくなった音楽家の言葉です。なんだか哲学者の言葉みたいですね。若くしてこれだけのことが語れる音楽家の生涯というものを考えてしまいます。彼にとって「愛と希望」はどのような意味を持っていたのでしょうか。彼の歌曲には愛へのあこがれと同時にあこがれを支える深い無の緊張のようなものを感じます。器楽曲にしても未完成交響曲のような、人間業とは思えない曲想、キューブリックが「バリー・リンドン」のテーマ音楽に使ったピアノ三重奏曲第2番のようななんともいえないエロチズム。そして合唱曲はミサ曲第6番アニュスデイのようなとてつもなく悲痛で暗い曲想、これらを聴くと言葉以上に雄弁な深い精神性を感じます。シューベルトは一生かかって聴く音楽です。
 
 それから、ジャズ、これらも私たちの生活を心豊かにしてくれます。ステフォン・ハリスやアイク・ケベックの演奏はジャズるとはどういうことかを教えてくれます。そしてジャズボーカル。ストリングスを伴ったビリー・ホリデイやナット・キング・コールの歌には、昔の日本の歌謡曲にも似た郷愁を感じさせます。

 今回は空間的な広がりのある、伸びやかな曲を選びました。ファーイの古戦場から再びヘンデルの協奏曲に戻ると、この二つのシンフォニーに挟まれて珠玉の作品が連なっていることが分かります。さあ、音楽のふたを開けてください。
                                                  

(2005/05/29)

 

 

 


3 VOM GEBET

 音楽の贈り物の第三弾です。今回はシューベルトを中心に「祈り」の音楽がテーマです。地味でなじみにくい曲があるかもしれませんが、じっくり聴いていただくと今まで以上の名曲ばかりです。シューベルトの歌曲は歌詞も添付しましたので、シューベルトにとって祈りとは何かを考えることもできます。祈りとは結局人間というものが、できそこないだということにあるようです。最善を尽くして自己が正しいと確信しても、やがて不安と自己欺瞞の思いが襲ってきます。まあ、これだけマスコミが発達して、「偉業」をなした、著名な人間がチヤホヤされてくると、本当に特定の人間は偉くて正しい存在なのだと錯覚してしまうのかもしれませんが。本当の祈りは、そんなことはあり得ないといいます。各自が重荷を背負いながらも、それでも各自が自己の真の可能性を探ろうとするところに祈りは存在します。シューベルトにとって、祈りは自己が創造すべきものへの祈り、自己の芸術の可能性への祈り、それが生きていることだと信じる祈りです。


1.カッチーニのアベ・マリア
ロシア生まれのカウンター・テナー、スラヴァのヒットCD「アベ・マリア」から。16世紀フィレンツェの作曲家カッチーニの曲です。


2.カディスの娘たち
19世紀フランスの作曲家ドリーブの歌曲。冒頭のカスタネットがフラメンコの軽快な舞踏を連想させます。イギリスのソプラノ歌手イジーが歌います。


3. Pony Express
ポニー・エクスプレスとは、140年前、アメリカ大西部を疾駆した早馬の郵便配達のことで西部開拓のシンボルになった言葉です。トロンボーン,サックス、ギターのトリオ演奏。トリオとは思えない、厚みのある、暖かい音のシンフォニーです。


4.レモンの花咲く国
ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」でヴィルヘルムを生まれ故郷イタリアに誘おうとするミニョンの歌。バーバラ・ボニーの声色はこの薄幸の少女ミニョンにぴったりです。このシューベルトの歌曲の詳しい解説は歌詞の欄をご覧ください。


5.Bach平均率クラヴィーア曲集1番 No.13
1970年の夏、ザルツブルグ郊外のクレスハイム城で録音したリヒテルの演奏。城壁と空の青に玉のような音色が広がります。


6.小川の子守歌
テノールのフリッツ・ブンダーリヒは珍しくゆったりしたテンポで歌います。この才能豊かな歌手はこの録音の後、石の階段から落下するという事故で36歳の若さでこの世を去ります。詳しい解説は歌詞の欄で。


7.The Second Waltz
ご存知、キューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」のテーマ音楽に使われたショスタコーヴィッチの舞踏曲。華やかな中にも哀愁を帯びた曲相とニコール・キッドマンの美しい身体が重なり合います。


8.連祷
連祷とは、司祭と信者が死者のために交互に唱える祈りのことだそうです。ヤコービの詩に合ったシューベルトの祈りをフィッシャー・ディースカウがおおらかに歌います。


9.Green Grows The Holly
シーラ・カメンのおなじみケルト風フォークソング。ケルトの音楽がポピュラー音楽や次のカントリーウエスタンなどに与えた影響は甚大なものです。


10.Philosophycal Cawboy
カントリーウエスタンの代表的な歌手、ドン・エドワーズがカーボーイ生活を歌います。二三カ所デジタル音が重なってしまった箇所がありますが、ドンおじさんの早口のせいにしときましょう。


11. 君は憩い
このシューベルトの歌曲は歌詞からして男性が歌うものですが、ここではボーイッシュなバーバラがミニョンになりきってヴィルヘルムへの思いを歌うと想定するとまた格別な味わいがあります。詳しくは歌詞の欄をご覧ください。


12. Love
静かで単純な曲相と単純な言葉をジョン・レノンがうまくまとめあげています。


13. 春に
シューベルトの歌曲で歌われる春という題材は、憔悴した心と希望が交錯しながら上昇気流となる季節空間です。静かに上昇するゲルハーエルの詠唱とピアノとの絡み合いが見事です。これも詳しくは歌詞の欄で解説します


14. La Lue Requiem
ルネッサンス中期フランドルの作曲家ピエール・ド・ラリューのレクイエムの導入部。アルス・ノヴァは、男女12人からなるデンマークの合唱団。深い祈りを連想させる合唱です。


15. フーガの技法 No.9
カール・リステンパルト指揮、ザール放送室内管弦楽団の演奏。単純な主題を様々な調性とリズムで応答していくバッハの遺作です。ゆったりしたテンポの多い曲の中でもこの9番は疾走するバッハといった感じです。死に向かって、ひたすらに。


16. アノマンの登場
バリ島の芸能ケチャのボナ村での実況録音版です。男性コーラスのケチャをバックにラーマヤーナの物語が演じられます。ラーマの妻シータは魔王ラヴァナに誘拐されますが、ラーマの命を受けた神猿アノマンがシータを助けにくる場面です。ケチャの大きなうねりと物語の進行が重なってバリ特有のトランス状態が生まれます。日本の民謡や木やり唄にも通じる東南アジアの音域と抑揚です。

 

 シューベルトの「連祷」をじっくり聞いてみてください。バッハはあの不朽の名作マタイ受難曲の最後で「わがイエスよ、やすらけく眠りたまえ」と壮大な合唱で繰り返し歌います。シューベルトの場合は一人の詠唱とピアノだけで「すべてこの世を去った者らの、すべての魂よ、安らかに憩え」と歌います。フィッシャー・ディスカウのバリトンとジェラルド・ムーアのピアノはシューベルトの作品の荘厳さをうまく表現しているように思えます。そしてそれは故郷があり、さすらう大地があり、憩う家がありそれらを遠くはなれてもそこに戻っていく円環構造をなすものでした。
一方で昨今の若いシューベルト歌手たちは、このフィッシャー・ディスカウの円環を切り開き、ストレートに歌おうとします。その声は大地から大気圏を突き破って宇宙へとのびていくかのようにストレートで透明です。バーバラ・ボニーしかり、ゲルハーエルしかりです。彼らの祈りはまっすぐ大気を突き抜けていきます。
シューベルトの歌曲は様々な可能性を持って歌うことができるのです。最近あるロシアの歌手が歌う「冬の旅」を聞いたのですが、今までの誰とも違う歌いぶりに感動してしまいました。秀作というものはこうして新たな発見を可能とするのでしょう。
他方、合唱というジャンルでは、西洋音楽の原点としての和声的な合唱(ポリフォニー)の事例としてラ・リューのレクイエム、アジア的なざわめきとリズムの合唱の事例としてバリ島のケチャを収録しました。ラ・リューのレクイエムは冒頭部分だけの紹介ですので原盤で全体(約30分)を聴くと、さらに感動が増すことでしょう。また、ケチャは可能なら現地で聞けると楽しいものです。バリのヒンズー寺院独特の「割れ門」の前庭で夜、焚き火などの明かりだけで幻想的に演じられます。ケースの裏側に私がウブドの寺院で見たケチャの写真を添付しました。

 
                                                  

(2005/10/25)

 

 

 

 

4 DER WEG ZUM INDIEN(インドへの道)

 音楽の贈り物の第四弾です。今回もやはりシューベルトは3曲入っています。どれも名曲です。それに私の好きなジャニス・ジョップリンの曲も2曲。そして南インドを半月ほど旅行しましたので南インドの音楽を2曲入れてみました。南インドの奥深くバスを乗り継いで、地元の人からピーザムと呼ばれる、祈りと悟りと教育の場所を訪れました。人々はそこで静かにヨガをしたり、瞑想をしたり、ヒンドゥーの教えを説いたり、子供たちにラーマヤーナやマハーバーラタや地元の昔話などを教えたりしていました。そして一月に一度くらい行われるプージャと呼ばれる地元のお祭りに向けて準備をしていました。太鼓やバイオリンなどもあります。プージャでは古代のヒンドゥー哲学者シャンカラの生まれ変わりとなる長老が楽隊と一緒に村を練り歩くのです。長老は言います。動物たちはホリゾンタルに輪廻を繰り返すが、人間はバーティカルに天を目指して生き、再び生まれ変わることから解放されなければならないと。それが人間の生きる目的だと。言葉で考えると難しい問題ですが、音としてはヒンドゥー音楽はバーティカル(垂直上昇)なイメージを感じます。たとえば日本の太鼓は海のかなたに向かって遠方へ、水平に響く感じですが、インドの太鼓はハイソアーな上昇を繰り返すような雰囲気を感じます。古いお寺で休んでいると私に一人の青年が近づいてきてアーユーネイティヴ?と聞きます。私は遠い昔、この地から海を渡って日本にたどり着いた人々がいたという思いに駆られてここまで来たのでした。お前は原住民なのか。そうだ、私の遠い祖先はここドラヴィダのタミル人かもしれない。ケイムフロムジャパンと答えると、青年はにっこり笑って遠ざかりました。見たかった古代の環状列石は州政府に問い合わせたところ、現在国が調査中で入れないとのこと。しかし1984年にドクターオオノが見に来たことがあると。タミル語と日本語の関係を説いた国語学者大野晋さんもこのあたりを20年以上前に徘徊したと思うと感慨無量でした。


1.Impromptu No.3(シューベルト即興曲集第3番)
しみじみとした流れるような曲想です。このような曲の演奏は難しいのですが、オホラはさりげなく、抑制の効いた感動をもたらしています。


2.Rumba Mama
ウエザーレポート「ヘヴィーウエザー」から。1976年のモントルー・ジャズフェスティバルでのバドレーナの見事なコンガとタムタムの演奏です。


3.Me And Bobby McGee
ジャニス・ジョップリンの遺作「パール」から。全米ヒットチャートNO.1になった曲。少しウエスターンぽく、ふざけたところが面白い。リズミカルで軽快な曲です。


4.Frober Tombeau
ナポリ出身の女性ギタリストClara Campeseの演奏。しっかりと構築された曲ですが、味わいのある演奏です。

 

5.ほうき星の歌
谷山浩子の作詞・作曲。なんとなく私たちをどこかに静かに駆り立てます。彼女特有の透き通った声で。


6.シューベルト弦楽五重奏曲(第3楽章スケルツオ)
シューベルトがベートーベンの15番など私たちが青春時代に聴き入った傑作に触発されて作った作品。「死と乙女」では失敗したアルバンベルク四重奏団ですが、もう一人チェロを加えたこのCDは歴史的名演です。


7.Little Girl Blue
Me And Bobby McGeeと同様に「パール」に収録されたライブ録音。ニーナシモンが歌ったこの曲が好きだと歌います。ジャニスの白鳥の歌です。本当にうまい。いろいろ錯誤はあったが、最後は天性の歌手として死んでいったという感じです。


8.Romanzo

1900年という時代をファシズムと戦い乗り越えていったイタリアの民衆を描く長編映画の主題曲です。モリコーネはNHKの「ルーブル美術館」でもこの曲を最後に使っています。


9.舟歌
ヨーロッパの合唱団も歌うこの曲は、やはり日本の演歌の代表作のひとつだと思います。


10. Spirit Above
あの口に何本もサックスをくわえて演奏する盲目の芸術 家、ローランドカークの作品。ゴスペル調でハイソアーな曲です。


11. Bach Kantaten No.125
「平安と喜びのうちにわれ逝かん」、テルツ少年合唱団が唱 える最初の言葉が表題になっています。哀愁を帯びたフルートの音色がこの曲の基調になっています。


12. Memphis in June
少し古いレコードから。パンチの効いたワークソングで有名な彼女ですが、バラードもすばらしい。6月のメンフィスが目に浮かぶようです。


13. Veena Raaga
南インドの巨大な楽器、ヴィーナは、人間の体よりも重く大きいものがあります。しかし音色は繊細で豊かです。南インドの孤高の音楽家、バーラチャンダが日本で演奏した時の録音の一部です。


14. Kriti:Sabhapatikku
南インドのチタンバラムの神々を讃美した曲。ナラヤナスワミーは現地の言葉タミル語で歌っています。


15. 旅人の夜の歌
これだけの短い曲に詰まった表現の深さ!やはりシューベ ルトです。今は亡きヘルマンプライの絶唱です。

 

 シューベルトがこんなにすばらしい曲を残して31歳で無くなったわけですが、私が訪れた南インドのピーザムの創始者シャンカラも、ヒンドゥー哲学の基礎を築いて32歳でこの世を去っています。私はちょうどインドを旅している途中で59歳を迎えました。なんだか申し訳ない気もしますが、ピーザムの長老に言わせると、人ぞれぞれに、死ぬべきときは与えられている。それまで人それぞれのカルマを生き抜かなければならないといいます。長老も80歳を超えているくらいに見えました。長老の言うべきことが単純でしっかりしているのは、その言葉を支える土地と人々があってのことです。日本に戻って感じたのは、この国の言葉の軽さと支えの無さでした。インドの大学生たちと話したとき、日本の宗教について聞かれました。仏教、神道、キリスト教、それなりに信じている人もいるかもしれないが、どちらかというと冠婚葬祭と結びついた、非日常的なものだと答えると、ヒポクラシー、それは偽善だというのです。宗教が無くても理屈をこねて生きていける社会、一人一人が神と結びつくことは無く、みんなが同じような立場と考えを持っていることに安心する中流社会。日本はそのような社会かもしれないと、逆に考えさせられました。 
 しかし皮肉にもここで紹介したバッハの宗教カンタータは、日本で企画された世界的にも類を見ないバッハカンタータ大全集からの録音です。映画「アンナマグダレーナバッハの日記」に見るように、バッハが生活していた当時、実際の演奏はもっとつつましく教会の小さな講堂で、ひっそりと演奏されていたようです。当時毎日の生活を送ることに精一杯の人々は、ふと教会の壁から漏れ聞こえる、このカンタータ125番のフルートのなんともいえない音色に途中で足を止めて聞き入ったことがあったのでしょうか。それともそんな余裕も暇も無かったのでしょうか。そしていま、過去からよみがえって壮大に、すばらしい音質で私たちに感動を与えるこれらの曲は、わたしたちの時代に何を物語っているのでしょうか。                                               

(2007/08/10)

 

 

 


5 CONCERT HERBST(秋のコンサート)I

 音楽の贈り物の第五弾です。前回から6年が過ぎ去りました。私が初めてインドを旅行た年でした。早いものです。その後どういうわけか、あまり音楽を聴かなくなりました。友人から第五弾は出さないのかと言われても、出す気にはなりませんでした。今もあまり聴きたくないというか、無音の世界の方が好ましいのです。が、秋の夜も深まってくると、本でも読みながら、シューベルトの八重奏曲などを聴きたくなったりします。それはこのCDで一番最後に置くとして、はてどういう曲を選ぶべきか。前回入れたかったけど、容量の関係で断念したチャングムの「ハマンヨン」はいっとう最初に持ってくるとして・・・。あとどうしても入れたかったのはモーツアルトのグランパルティータでした。青春時代、あのメヌエットのオーボエの旋律は、何度も聴いたものです。しかし、もはや手元にないコレギウム・アウレウムのレコード盤をテープにとって、さらにそれをMDにコピーしたもので、録音は良くない。アマゾンでCDを検索するとベーム、ベルリンフィルのものが良いと出ていたので購入しました。録音は良いのですが、内容はまったく駄目。メヌエットはさらっと素通りして、有名な次のアダージ楽章を盛り上げて恰好をつけているだけ。こんなCDが売れるのかとがっかりしました。昔、ケラー四重奏団というグループがいて、その「死と乙女」を聴いて感動したのを覚えています。しかしケラー四重奏団は解散したのか、見当たりません。他の演奏家の「死と乙女」はどれもがこれ見よがしの演奏のように思えてきます。魂のこもった良い演奏に出会うことはまれです。しかし、そんな演奏に出会ったときは、本当に心から、音楽というものがこの世にあってよかったなと思います。
 今回は、残念ながら録音は良くないが、思い出のコレギウムのグランパルティータからの抜粋を真ん中に置いて、後は持っているCDの中から、この時期にふさわしい曲を選んでみました。秋の夜長を読書したり、編み物をしたり、その他何か楽しい作業をしながら、背後から静かに聴いてもらえると良いですね。人それぞれに感動する音楽は違います。一つでも気に入った曲があれば幸いです。
                                            (2013/10/17)


1.何茫然(ハマンヨン)
韓国ドラマ「チャングムの誓い」から。スケールの大きいラヴソングです。遥か彼方から、近くにいて欲しいと歌います。歌手はイタリア人のAlessandro Safina。


2.Hunaral Music on the death of Queen Mary
ヘンリー・パーセルの「メアリー女王の葬送のための音楽」からカンツオーナ。トーマス・ヘンゲルブロック指揮、バルタザール=ノイマン=アンサンブルの演奏。


3.短歌(タンガ)
韓国ドラマ「チャングムの誓い」から。このドラマのいたるところで情感豊かな曲を作っているイ・シウのピアノ演奏。
4.Stardust
ライオネル・ハンプトンのスターダストは、ジャズファンなら誰もが知っている古典的名演奏。ハンプトンのヴァイブのイントロからオールスターズの面々が繰り広げる情感のこもったソロと観客の息づかい、どれもがいつ聴いても楽しくなります。


5.Madhurashtakam
Krishna Bhajansの中から。バジャン(Bhajan)とは、神への献身を歌うサンスクリット語の声楽形式。ここでは魅惑的なクリシュナ神を讃えています。


6.ハイドン交響曲第22番 Adagio(「哲学者」)
この曲が何故「哲学者」と名付けられたのか分かっていません。この第1楽章のアダージョのイメージが何となく遥かなる思索の道へと我々を誘うかのようです。


7.モーツアルト「グランパルティータ」Menuetto
セレナード第10番GranPartitaの第2楽章から、その後半部分をまとめました。オーボエのあどけなくも哀愁を帯びた旋律が印象的です。コレギウムはこの小節を余分に繰り返しています。


8.シューベルト 冬の旅から、第20曲「道しるべ」
冬の旅は、フィッシャー・ディースカウのものが優れてはいます。ゲルハーエルはそれよりもゆったりと伸びやかに歌います。その分、雪の山道に入り込んでしまった主人公にもかすかな未来が見え隠れするようにも思えます。


9.ブラームス 弦楽六重奏曲第1番 Andante
昔、車のTVコマーシャルでこの曲が流れて有名になりました。ブラームス27歳の作品。ベルリンフィルのメンバーによって構成された八重奏団がゆったりと奏します。


10. ショスタコーヴィッチ ジャズ組曲から、「Dance1」
ソ連におけるジャズの普及を図って作った作品。この曲はショスタコーヴィッチ自身の映画音楽から引用。ジャズというよりも軽快な舞踏曲。


11. When The Bridegroom comes
ジュディ・シルはアメリカで1944年に生まれ、1979年に薬物の過剰摂取で命を絶ったシンガーソングライター。生前は脚光をあびることはありませんでした。宗教的な独特の弾き語りで優しく、かつ切々と歌いあげます。


12. シューベルト 八重奏曲 第2楽章Adagio
クラリネットと弦が淡々と繰り返す優美な主題は、深く静まりかえる秋の夜長、もの思う心に忍びこむかのようです。

 

 

 

 

 

 

6 CONCERT HERBST II

 音楽の贈り物の第6弾です。前回から4年が過ぎ去りました。こうして第6弾を作成していると、改めて時のたつ速さを思い知らされます。パソコンでCDを作成するやり方も忘れてしまって、曲ごとの音の調整もうまくいかなかったところもあります。面倒ですが、ステレオ等のボリュームで調整してください。今回も性懲りも無く、韓国ドラマの音楽や、盛りだくさんのシューベルトが中心です。シューベルトのピアノソナタは、少し長いのですが、このロシアのピアニスト、アファナシエフは、シューベルトの想いをしっかり捉えた演奏を聴かせます。しっかり捉えるという意味では、今回二曲を選んだ、ケラー四重奏団の演奏も、じっくり聴かせるものだと思います。ところで前回のこの解説書で、私は、ケラー四重奏団というべきところを、カペー四重奏団と間違えてしまいました。カペー楽団にも素晴らしいシューベルトの弦楽四重奏曲がありますが。ケラー弦楽四重奏団の「死と乙女」の第二楽章を入れたかったのですが、少し長すぎたので、割愛しました。最後にこれもシューベルトのピアノトリオの心に染み入るアンダンテで締めくくりました。秋の夜長を、少しでも気に入った曲を見つけて楽しんでいただければ幸いです。

                                            (2017/11/16)

1.Apna
再び、韓国ドラマ「チャングムの誓い」から。イム・セヒョン作曲。物語も曲も今や、古典的な存在です。

 

2.In pace
In pace は、ラテン語で安らかに(in peace)という意味。イタリアオペラのような歌曲ですが、パトリック・ドイルという映画音楽作曲家の作品です。

 

3.Birdland
ウエザーレポートの「ヘビーウエザー」から。途中から広がるポップな主題は、全米でヒットしたようですが、ジョー・ザビヌルの作曲は、様々な楽器やヴォーカルがランダムに飛び出てくるようですが、とても緻密に構成されていて、しかも乗ってしまいます。

 

4.秋桜
さだまさし作曲・作詞のおなじみの曲。薄紅の秋桜が秋の日の陽だまりに揺れている。この頃、涙もろくなった母が庭先で一つ咳をする、と歌います。

 

5. Com Moto
シューベルトのピアノソナタ第17番の2楽章。前曲、秋桜の最後では、こんな小春日和の穏やかな日はもう少しあなたの子供でいさせてください、と締めくくりますが、このピアノソナタも、子供たちが遊ぶ風景の素晴らしい主題が三度も続きます。アファナシエフもそこを心得ており、未来の子供達のイメージを演奏しているかのようです。

 

6.天崖之我
韓国ドラマ、「トンイ」の哀愁歌。あの空に描いた風のささやき、美しい光を追いかけ、ひとりまどろむ恋しくてたまらないその場所は、おぼろげな記憶の中、野の花のようにはかない。空よ、花よ、夕焼けよ、空を染めて、夢の中で叫ぶ切ない思いよ、星の輝きとともに届け、と歌います。勧善懲悪の時代劇ですが、悪役たちの演技が実にうまい。最後まで見てしまいます。

 

7.弦楽のためのアダージョ
サミュエル・バーバーの有名な管弦楽曲をケラー四重奏団が演奏します。なんども聞くことのある曲ですが、それを承知の上で、ここだけの見事な演奏を聴かせてくれます。

 

8.テソリート
テソリートとは、スペイン語で宝物という意味だそうです。ハープ奏者の上松美香の代表作です。

 

9.君は憩い
以前、この曲はバーバラ・ボニーの歌でお届けしました。ここでは、ボルヒェルトが、少しアルトっぽい声で歌っています。最初から高域の音なので、彼女の声からすると、少し緊張気味になりますが、ボーイッシュなボニーと違って、これはこれで温かみのある歌唱だと思います。

 

10. 汝の家を整えよ
ドイツグラモフォンのカール・リヒターのレコード盤から。「神の時はいと良きかな(Gottes Zeit ist allerbeste zeit)」というバッハのカンタータ。バッハカンタータ199曲の中での最高傑作。その中から中盤のアリアとコラールです。人間は死すべき存在なのだから、今、自らの家を築けと歌います。

 

11. Art of Fuga
バッハ晩年のフーガの技法20曲のうちの、最後から三番目の曲です。以前、オーケストラで九番目の曲は紹介しましたが、ここではバイオリンとチェロの二声だけで演奏されます。見事な演奏です。

 

12. 満月に(「ロザムンデ」から)
ロザムンデの物語そのものはありきたりでも、シュー ベルトはこの楽劇で多数の親しみやすい音楽を作曲し ています。中でもこの優美なアリアは、オーケストラ を背景に歌われます。しかしここでのピアノ伴奏だけ のボルヒェルトの生き生きとした歌唱が素晴らしい。

 

13 シューベルトピアノ三重奏曲第二番第二楽章
シューベルト(1797~1828),1827 年の作品。この優美なアンダンテ楽章は、キューブリックの映画「バリーリンドン」で女性が庭のバスタブで水浴する場面で使われていました。しめやかに始まる冒頭のピアノとチェロの掛け合いが、なんともエロティックです。

 

 

 

 

 

7 Kleines Licht (小さな光が世界を照らす)

 音楽の贈り物の第7弾です。今年の猛暑は耐え難いものでしたが、やはり秋の気配を感じるようになると、音楽の贈り物に親しみたくなります。。このCDのジャケットの絵は、17世紀フランスの画家ラ・トゥールが描いた「大工聖ヨセフ」です。少年イエスがロウソクの灯で父ヨセフの仕事を見つめています。この絵に触発されるかのように、今回は最初のシューベルトの歌曲「月に寄す」から13番目のバッハカンタータ「キリストは死の縛め受けて」まで、ずっと通して聴けるように、音を調節してみました。そして最後は、ケラー弦楽四重奏団の「死と乙女」の第二楽章をようやく入れることができました。シューベルト自らが気に入った、この親しみやすい旋律を、4人の絶妙のアンサンブルで聴かしてくれます。これだけは長いので、別に聴いてみてください。前回に引き続き、秋の夜長を、少しでも気に入った曲を見つけて楽しんでいただければ幸いです。

                                            (2018/09/18)

1.月に寄す (An den Mond)
まだ二十歳前のシューベルトが、ゲーテの詩に作曲した歌。バリトンのゲルハーエルがゲロルト・フーバーのピアノ伴奏で情感をこめて、しかしストレートに歌い切ります。

 

2.ヘンデル トリオ・ソナタ (Hendel Trio Sonata Op2 No.6)
ヘンデルが二十歳の頃に作曲したトリオ・ソナタです。二つのバイオリンと通奏低音楽器(チェロなど)で演奏されます。

 

3.行きゅんにゃ加那節
私が子供時代鹿児島市に住んでいた頃、近くに大島紬の工場があって、そこで奄美大島のひとびとが話す言葉が全く分からなかった記憶があります。親しい人との別れを歌った哀愁ある歌です。NHKの「西郷どん」は見ていないのですが、西郷が奄美大島にいた時の場面でこの歌が使われたようです。

 

4.小さな光が
30数年前、NHKで放映された「ルーブル美術館」は、エンニオモリコーネの音楽でも有名になりました。少年イエスと父ヨセフが光の中で静かに浮かび上がっています。

 

5. お前の印 (A Remark You made)
前回に引き続き、ウェザーレポートの「ヘビーウェザー」から。ウエイン・ショーターの伸びやかなサックスと、ジョー・ザビヌルのEピアノ、ジャコ・パストリアスのEベースが本当にハッピーな演奏を展開します。

 

6.深海の樹脈
2004年に72歳で亡くなったアイヌのミュージシャン、安東ウメ子さんの歌です。ムックリ(口琴)やウポポ(歌謡)などアイヌの伝承音楽の継承や普及に尽力された方でした。

 

7.ベサメ・ムーチョ(Besa me mucho)
スペイン語で「私にたくさんキスして」という意味の ラブソング。ここではアート・ペッパーがアルトサ クスで演奏しています。麻薬中毒で何度もブランクの あった彼ですが、ここではアルトサックスの小気味良い音色を最大限に活かして演奏しています。

 

8.バッハ パルティータ (Bach Partita BMW930)
ペタペタと演奏するグールドのピアノは、本人がリリシズムに酔いしれているように聴こえますが、それこそ彼が一世を風靡したスタイルです。時には、このようなバッハを聴きたくなります

9.アニュス・デイ (Agnus Dei)
シューベルトのミサ曲第6番の最後を飾るアニュス・デイ(神の子羊)から。世の罪を除きたもう主よ、我らを憐れみたまえ、と歌いますが、シューベルトは神の憐れみを拒絶するかのような、地の底から湧き上がるような悲しみを歌います。それを汲み取ったジュリーニの指揮(バイエルン放送合唱団と管弦楽団)は感動的です。このあと、我らに平安を与えたまえ(Dona nobis pacem)の合唱で締めくくられます。

 

10. Eu Chorei (Wild Woodから))
Shira Kamen とSwanのコンビは、音楽の贈り物1で二曲紹介しています。世界中の民謡をうまくアレンジして歌います。Eu Choreiはポルトガル語で私は泣いたという意味ですが、最初はポルトガル語で、後半は英語が混じっています。お前のおっかあは魔女で、おとうはオオカミ人間だ、と。

 

11. ビバルディのグロリア (Vovaldi Gloria)
アメリカの音楽大学の名門、University of North Texas College of Music の演奏。指揮は大学で合唱を指導するリチャード・スパークスです。

 

12. ブルックナー交響曲第8番第3楽章アダージョ  (Buruckner Symphony8 Adagio)
昨年93歳で亡くなったスクロヴァチェフスキーが、そ の一年前に読売日本交響楽団を指揮したときのライブ 録音です。このアダージョ楽章は、30分近くもかか る、ブルックナーでは最も長い楽章ですが、その中で 二度繰り返されるこの旋律は、彼の交響曲の中でも印 象深い旋律の一つです。その深く広がりのある旋律を 味わっていただきたいと思い、ここに一部分ですが録 音することにしました。

 

13 キリストは死の縛め受けて(Christ Lag in Todesbanden BWV4)
ラ・トゥールが描いた少年イエスは、やがてグリューネバルトの描いたイーゼンハイム祭壇画の磔刑図と復活の絵のように変貌していきます。このバッハカンタータ第4番では、フィシャー・ディスカウがキリストの受難と復活を恐ろしいほどの気迫で歌っています。指揮はカールリヒター。永遠の名盤です。

 

14 シューベルト弦楽四重奏曲「死と乙女」アンダンテ

弦楽四重奏曲「死と乙女」全4楽章は、シューベルトが20歳の頃作曲した歌曲「死と乙女」の伴奏の旋律を、この第二楽章のアンダンテに取り入れたものです。歌曲は、病床の乙女が死を拒否しようとしますが、死は、おまえに安息をもたらすために来たのだと、優しく乙女に語りかけます。そのように優しく語りかけるような死の旋律がこの弦 楽四重奏曲全体の中心をなすアンダンテ楽章で穏やかに、時にはせきたてるように、そして最後は乙女を包み込むように流れていきます。

 

 

Bach-Bruckner (バッハからブルックナーへ)

 音楽の贈り物の第8弾です。今年は今までにない強風の台風や大雨が続きました。ようやく自然の猛威もおさまり、秋が深まってくると、再び音楽の贈り物に親しみたくなります。今回はバッハのマタイ受難曲とブルックナーのミサ曲をモーツアルトの大ミサの二曲で包み込んだ構成になりました。バッハとモーツアルトは大音響の合唱曲で、ブルックナーのクレドの一部は繊細なテノールとバイオリンの音で始まります。したがってどちらも最高のステレオ装置で聴けたら良いのですが、私などは耳を覆うような1万円程度のヘッドホーンで聴いて、これらの合唱曲の良さを味わうことができました。バーンスタインが疾走するモーツアルトを生き生きと捉えています。クレンペラーは超スローテンポで入って、それが少年合唱団の劇的な盛り上がりを活かしています。ブルックナーのミサ曲では、チェリビダッケがバイオリンとテノール、そして合唱の抑制の効いたアンサンブルの流れで深い感動を導き出しています。どれもできれば良い再生環境で聴いていただけたら幸いです。
詳しい解説は「やまぼうしブログNo.118」(taranomeann.com/yamaboshi.html)でも掲載しました。
                                            (2019/12/18)

1.モーツアルト 大ミサ、クレドから「我は信ず、唯一の神」
大ミサからは、音楽の贈り物Part2で、ソプラノの二重唱をお届けしましたが、ここではクレドの大合唱です。レナード・バーンスタイン指揮、バイエルン放送合唱団、バイエルン放送交響楽団、1990年の演奏です。

 

2.古戦場
この曲も音楽の贈り物Part2の最後に載せた曲です。Part2では、録音状態が悪く、少し雑音が入っていました。ここではクリアな音源でアイルランドの民族楽器ローホイッスルの響きが広がります。

 

3.ヴェーゼンドルクの5つの歌から夢
ワーグナーが「トリスタンとイゾルデ」のための習作として作った曲です。

 

4.バッハ、マタイ受難曲からNr35 Choral
バッハのヨハネ受難曲の冒頭に持っていく曲でしたがマタイの第一部の最後を飾る大合唱としてここに 置かれました。オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア合唱団、ハンプシュテット教会少年合 唱団、フルハーモニア交響楽団、1961年の演奏です。

 

5. ロマンツオ(映画「1900年」のテーマ)
これも音楽の贈り物Part4に既に収録した曲です。エンニオ・モリコーネの作曲。映画[1900年]は、1900年代の北イタリアの激動の歴史を5時間にわたって描いた映画です。

 

6.シューベルト、ピアノソナタ14番からアンダンテ
シューベルト26歳頃の作品。梅毒による体の不具合が深刻化した頃で、もはや普通の人生は送れないという諦念にもとれるテンポで始まります。それはやがて自分に降りかかる運命への激しい怒りの打点音となりますが、再び静まり返ると、逆に諦念は音楽という芸術への限りない意欲へと変貌していく。そんなシューベルトの気持ちをアファナシエフはゆったりとしたテンポで聴かせてくれます。

 

7.マイワン アンド オンリーラブ
ジョン・コルトレーンのおなじみのバンド(マッコイタイナーのピアノ、ジミーギャリソンのベース、エル ヴィンジョーンズのドラム)がヴォーカルのジョニー ハートマンを迎えて行ったバラードのセッション。1963年の演奏です。


8. ブルックナー、ミサ曲第3番からクレドの一部
指揮セルジュ・チェリビダッケ、ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団、ミュンヘンフィルハーモニー合唱団の990年の演奏。CDの解説書によると、チェリビダッケはこの曲のリハーサルで「真の合唱の姿を世界に示そうではないか」といったそうです。その中でもクレドは彼が最も思いを込めた楽章だったようです。

 

9.可愛いちっちゃなイエス様
前曲のクレドにおけるイエスの磔刑に至る場面を前提に、小さい頃のあなたがこんな苦しみを受けるなんて私たちの苦しみなどどれほどのことかと歌います。キャスリーン・バトルがクリストファー・パークニングのギター伴奏で歌います。1984年の録音。お馴染みのクリスマスソングですが、黒人霊歌として編曲前の歌詞(You wereではなくYou was …)で歌います。

 

10. モーツアルト 大ミサ、グロリアから「聖霊とともに」
最初のクレドとは順序が逆ですが、今回の「音楽の贈り物」の最後にふさわしい演奏ではないかということでここにおきました。

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9 調和音 (Stones of pandit 賢者の石)

 音楽の贈り物の第9弾です。ジャケットは館山在住の画家Nana_eさんの作品です。私の勝手な解釈で賢者の石と名付けました。古代インドなどの賢者たちが築いてきた人類の知恵は、硬い石となって積み重なってきました。そこに産業革命後の人類は近代的な構造物を築いてきました。この先どうなるかわかりませんが。
 言葉だけが氾濫して、窒息しそうになる時、音楽は救いでした。シューベルトのピアノソナタや歌曲、ブルックナーの交響曲のアダージョ、バッハのカンタータ、ミサ曲、ベートーベンの室内楽、これらが私の心を癒してくれました。
 シューベルトは「調和音」(To Harmony)という歌曲で、音楽が人類の普遍的な慰めであること、そして人々を惨めなこの世の生活から高めるために必要なものであることを歌います。彼は言っています。「我々の内的な混乱を沈め、我々の失われた夢のヴィジョンを復興し、人間の精神への信頼と希望を取り戻すもの、それが音楽である!」
 今回はこれらの作曲家の作品を選びました。長い曲が多くなりました。どれか一つでも、ゆっくり味わっていただければと思います。
 
                                           (2021/12/18)

1.岩の上の羊飼い
シューベルトの死の直前の作品。彼はミューラーの詩に多くの曲をつけています。「美しき水車小屋の娘」でも悲劇の中にも春への喜びと期待が歌われていました。ここでも同じような内容ですが、春への期待が最後に歌われていることから、シューベルト自身のなにか覚悟のようなものを感じさせられます。トーマス・マンは、「魔の山」で、若くしてこの世を去ったシューベルトを畢竟彼は英雄だったと述べています。主人公ハンス・カストルプは、シューベルトの菩提樹を口ずさみながら、戦場へと向かって行ったのでした。バーバラ・ボニーがクラリネットの素晴らしい演奏に誘われて、渾身の想いで歌います。

 

2.Nimrod
エドワード・エルガーが作曲した「エニグマ変奏曲」の中でもよく演奏されるアダージョ楽章。楽章名がニムロドと旧約聖書に登場する人物名が題されています。エルガーの妻が「なんて曲?」と聞き返したメロディーがこの曲かもしれません。生前、針仕事をしていた母が私が聴いていたブラームスの交響曲第1番の有名な旋律を「なんて曲?」と聞いたのを思い出します。私の妻も、ファーイの「古戦場」で演奏されるアイルランドの民族楽器ローホイッスルの音色が気に入って、何度も聞いています。ふっと人々に親しみを感じさせる曲があります。そこから人それぞれの音楽の世界が広がっていきます。

 

3.バッハ無伴奏チェロソナタ
無伴奏チェロの場合、主旋律と通奏低音の役割を同 時にこなさなければならないという難しさがあるようですが、オランダのバロックチェロの第一人者で あるビルスマが豊かな旋律を自然の流れとして歌い上げてくれます。

 

4.Children of Nature
日本では「春にして君を想う」という題名で公開されたアイスランドの映画で流された音楽です。海辺 の村に取り残された老人が首都レイキャベクの子供 のマンションに移住します。しかし都会の生活に馴 染めず、老人ホームに入れられますが、そこで幼馴 染の女性と再開し、二人は連れ立って無断で老人ホ ームを飛び出し、途中車を盗んで廃村となった故郷 へと向かいます。警察は二人の行方を追いますが 検問を打ち破って無人の故郷に戻ります。二人は昔 の生活を取り戻しますが、まもなくここで最期を迎 えることを知っています。先に彼女の方が海辺で亡く なります。彼は自ら棺をこしらえて彼女を葬ります そして自らの最期の場所を目指して砂浜を歩きます。
そこで彼が歌いはじめるのがバッハの有名な合唱曲で す。この曲はもともとドイツのプロテスタント教会で古くから歌われてきた合唱曲(おお、この世よさようなら O! Welt ich muss dich lassen.)がもとになっ ており、バッハのマタイ受難曲の中でも何度も歌われ ます。
やがて彼は海辺の高台へと向かいます。最後の力をふ り絞ってそこへたどりつきます。そこは漁獲物の加工場のような場所で、水浸しの廃墟となっていました。なぜこんな高台に加工場があるのか不思議ですが、複 数の建物の並びは、アウシュビッツを連想させます。 彼はそこで廃棄されていた書物の一部を手に取りま す。そこに「ベルリン/天使の詩」のブルーノ・ガン ツが 現れ、彼の肩に手を触れますが、彼はそれに気 づかず、外へと向かいます。上空には追いついた警察 のヘリコプターが彼の足取りを見守りますが彼は霧の中にふっと消えてしまうのでした。高台に到着してからのリゲティのような現代音楽の響き、それに加えてヘリコプターのプロペラの音までが、意味深いサウン ドトラックとなって映像が終焉に向かいます。そしてエンディングロールに流れる印象深い音楽。この映画 は様々な賞を獲得していますが監督は、自分は現代社会の批判を目論んだわけではない。人間の自然の成り行きとして二人の最後の旅を見てほしいと言っていま す。

 

5. ベートーベン弦楽四重奏曲No.13
この曲のアダージョ楽章でベートーベンは、cantante e tranquillo(静かに歌うように)と指示しています。これはこの曲を収めたケラー四重奏団のCDの表題にもなっており、CDには冒頭にこの曲を配して、他にリゲティやバッハ、クナイフェルの曲など、文字通り静かに歌いこむような曲が入っています。

 

6.Erbarme Dich
バッハマタイ受難曲でペテロが人々に私はイエスを知らないと偽った後に歌われるアリアです.イエスがペテロに鶏が鳴く前に三度私を知らないと言うだろうと、言ったのに対して絶対そんなことはないと答えたペテロでしたが、群衆の前でイエスを知らないと言った後にすぐ鶏が泣きます。ペテロはイエスの言葉を思い出し、外で激しく泣きます。2012年フランスで開催されたコンサートで渡邊さとみさんのバロックバイオリン、オルフェオ55の合奏、指揮とアルトがナタリー・シュトッツマンです。バロックバイオリンの名手、渡邊さとみさんは2019年に逝去されました。

 

7.ブルックナー弦楽五重奏曲Adagio
ブルックナーのほとんど唯一の室内楽作品。交響曲的な広がりのため、スクロバチェフスキーなどが編曲してオーケ ストラでも演奏されています。導入部の第一主題と次 に展開する第二主題ともに親しみやすいひびきです。 生涯嬰児のように神のようなものを信じてきたブルッ クナー独特の旋律です。

 

 

 

 

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